アメリカの確定申告 – 個人経費の控除が認められている項目別控除について
アメリカのタックスリターンには、標準控除と項目別控除があり、一般的にどちらか大きい方が課税対象となる所得から控除されます。
標準控除 (Standard Deduction) とは、申告ステータスによって、一定額の控除を受けることができます。2023年度の標準控除額は以下のとおりです。
申告ステータス | 基礎控除額 |
---|---|
独身 | $13,850 |
夫婦合算 | $27,700 |
夫婦別 | $13,850 |
特定世帯主 | $20,800 |
項目別控除 (Itemized Deduction) とは、税法上において控除が認められている個人経費の合計額が所得から控除されます。項目別控除として認められている個人経費は大きく6つの項目に分類されます。
- 1医療・歯科治療費
- 2
税金
- 3
支払利息
- 4寄付
- 5
災害による損失
- 6
その他
今回はこの項目別控除について、わかりやすく解説していきます。ぜひご参考にしてください。
注意点
夫婦別で申告する場合、両方の確定申告が標準控除・項目別控除を統一している必要があります。例えば、一方の配偶者が項目別控除を選択すると、もう一方の配偶者も項目別控除を選択する必要があります。
医療費・歯科治療費
税法上の米国居住者が自己負担した医療費と歯科治療費は、項目別控除の対象となります。ただし、医療費・歯科治療費の合計額が、調整後総収入 (Adjusted Gross Income)の7.5%を超える額が控除の対象となります。
例えば、Aさんの調整後総収入が$100,000であり、年間にかかった医療費・歯科治療費の合計額が$8,000である場合、項目別控除として認められる医療費は$500となります。計算方法は次のとおりです。
- 1
$100,000 x 7.5% = $7,500
- 2
$8,000 - $7,500 = $500
注意点
米国非居住者の申告では、標準控除を受けることができません。また、項目別控除は認められていますが、医療・歯科治療費は控除が認められていませんので、ご注意ください。
- 1
処方箋・インスリン注射
- 2
診察費・入院費
- 3歯の矯正
- 4
医療保険 (自己負担分)
- 5
治療上必要な手術
- 6治療を受けるためにかかった移動費
- 7
コンタクトレンズ・眼鏡・補聴器など
上記以外にも控除の対象となる医療・歯科治療費がありますので、ご確認したい方は、以下のサイトをご参照ください。
- 1医療上必要ではない整形手術
- 2ビタミン剤・プロテイン
- 3
生命保険料
- 4
化粧品類や洗面用具など
よくある質問
日本での医療費・歯科治療費はアメリカのタックスリターンで控除の対象となりますか?
日本での医療費や歯科治療費が、米国の法律上、合法である場合、控除の対象となります。
税金
個人経費としてお支払いした税金は、項目別控除の対象となります。ただし、2017年度に可決された「Tax Cuts and Jobs Act」により、控除の限度額が$10,000までとなりました。夫婦別で申告する場合、控除の限度額は、$5,000までとなります。
項目別控除の対象となる税金のお支払いは、次のとおりです。
- 1自宅の固定資産税
- 2
州・自治体にお支払いした予定納税、源泉徴収 (年内)
- 3
州・自治体の税務通知書によりお支払いした追徴税 (年内)
- 4自動車やボートなどにかかる動産税
- 5
自動車などを購入した際にお支払いした消費税
- 1
連邦の所得税・源泉徴収額
- 2州の相続税
- 3
賃貸物件のために払った固定資産税
よくある質問
日本でお支払いした自宅の固定資産税は控除の対象となりますか?
残念ながら日本にあるご自宅のためにお支払いした固定資産税は控除の対象とはなりません。ただし、渡米される方で、日本のご自宅を貸し出している場合は、賃貸物件の収支申告書 (Schedule-E) にて控除されます。
利息
個人経費としてお支払いする利息も、項目別控除の対象となります。
- 1住宅ローンの利息支払い (夫婦別以外は$750,000まで、夫婦別は$350,000まで)
- 2
投資利息 (課税対象の投資所得額までが控除可能)
- 1
個人的に銀行から借り入れたローンの利息
- 2
生命保険ポリシーローンの利息
- 3クレジットカードによる利息
- 4自動車ローンの利息
- 5
税金未納により発生した利息
寄付
IRSが認可している団体に寄付を行うと控除の対象となります。ただし、金銭的な寄付と非金銭的な寄付によって、控除の限度額や対象額が異なります。
団体がIRSに認可しているかの確認は、以下のサイトにて検索をかけることができますので、ご利用ください。
金銭的な寄付の控除対象額は、Adjusted Gross Incomeの60%までが控除の限度額となります。金銭的な寄付は、監査対象となりやすいので、団体からの領収書を必ず発行してもらう必要があります。
非金銭的な寄付の控除対象額は、Adjusted Gross Incomeの50%までが控除の限度額となります。非金銭的な寄付の控除対象額は、その物品の購入価格、もしくは市場価値、いずれか低い方の額が控除の対象となります。
非金銭的な寄付の控除対象額が、一定額を超える場合、申告書や必須書類が追加されます。
$500以上である場合:
その団体からContemporaneous written acknowledgement (書面による承認書)を申告書期日前に受け取り、Form 8283を提出する必要があります。
$5,000を超える場合:
上記のForm 8283、Contemporaneous written acknowledgementに加え、その物品のWritten Appraisal (書面による価格査定) が必要です。
災害による損失
災害による損失も、項目別控除の対象となります。ただし、損失が項目別控除の対象となるには、米国大統領によって宣言された災害 (Federally declared disaster) である必要があります。
災害がFederally declared disasterの対象となるかは、以下のサイトにて検索できますので、ご利用ください。
損失額の計算は、保険払い戻しの適用がある場合とない場合で異なります。
保険払い戻しの適用がない場合:
(災害前の市場価値) ー (災害後の市場価値) = 対象損失額
保険払い戻しの適用がある場合:
(損失額) ー (保険払い戻し) = 対象損失額
控除の限度額は、その損失のあった財産の課税標準 (Tax Basis)、もしくは対象損失額、いずれかの低い方が控除の対象となります。
項目別控除の控除対象額の計算方法は、まず損失一件につき、$100が減額されます。そして、他の損失と合計し、その合計額が調整後総所得の10%を超えた額が損失による控除の対象額となります。
よくある質問
シロアリにより、家が倒壊した場合は、損失額の控除対象となりますか?
残念ながら控除対象とはなりません。これはProgressive Deteriorationと分類されますので、突然で不意に起きていないと判断されます。
その他
その他の項目別控除は、4つに分類されます。
- 1
ギャンブルによる損失
- 2
償却可能社債発行プレミアム
- 3障害労働者の就労費用
- 4Ponzi-Schemesによる損失
近年、アメリカではFanDuelやDraftKingsなど、プロスポーツを利用したギャンブル・サイトが急速に広まっています。チームの勝敗を賭けるだけでなく、試合の先手を決めるコイントスで、「表」が出るか、「裏」が出るかを賭けたりするなど、手軽にギャンブルができるようになりました。
ギャンブルによる損失は、受け取った賞金額までが上限となります。例えば、ギャンブルで$15,000の賞金を獲得しましたが、その後、$20,000を損失したとしましょう。
この場合、賞金の$15,000は所得として課税対象となりますので、確定申告に申告する必要があります。しかし、ギャンブルの損失は受け取った賞金額までが上限となりますので、$15,000が項目別控除に申告されます。残りの$5,000の損失は控除対象とはなりません。また、来年に損失を繰り越すこともできません。