FBAR申告書の対象者と対象海外口座:未申告による罰金について
FBAR (Foreign Bank Account Report)とは、「FBAR申告対象者」がアメリカ以外の金融機関に持っている口座を開示するための申告書です。「FBAR申告対象者」は、毎年FBAR申告書の申請が義務付けられています。
FBAR申告書は、Financial Crime Enforcement Network (FinCEN)へ申請する必要があります。よく間違われる点として、IRS(注1:日本の国税庁に相当する、米国の内国歳入庁)への申請と思われることがありますが、これは異なります。ただし、2003年4月より、FBARの取締権限 (Enforcement Authority) 自体はFinCENではなくIRSが保有しています。
2022年8月16日にバイデン大統領が”Inflation Reduction Act”(注2:インフレ抑制法)に署名し、同法が成立しました。これにより、IRSに800 億ドル - 日本円でおおよそ12兆円の予算が投じられることとなりました。
2023年4月6日にIRSがその予算をもとにOperation Planを発表し、予算の約57% である約450億ドルを取り締まり (Enforcement Activity) に振り分けると声明を出しています。そのため、今後はFBAR申告への取り締まりがさらに強化されると予想されています。
この記事では、FBAR申告について、よくある質問も含めながら解説していきます。
FBAR申告の対象者
FBAR申告対象者は、以下 2つの条件に該当する方が対象者となります。
- 1アメリカ市民権またはアメリカ永住権を持っているか、税法上の米国居住者であるか、またはDual-Statusに該当している
- 2
海外の金融機関口座で、年間の最高残高の合計が$10,000を超えている
例えば、日本に居住しているアメリカ永住権保持者が、日本の銀行口座を2つ保有していたとします。この方の口座Aの残高が$9,000、口座Bの残高が$5,000であった場合、2つの海外口座の合計が$14,000となります。この場合、この方は、FBAR申告の対象者となります
よくある質問
グリーンカードの更新していない場合は?
グリーンカードの更新を行っていない方でも、年間に1度でも米国外金融口座の合計額が$10,000を超えるのであれば、FBAR申告を申請する必要があります。
夫婦の場合、それぞれがFBAR申告対象者であるかを判断する必要があります。例えば、AさんとBさんが夫婦であり、夫婦ともに米国居住者であったとします。
【例1】 Aさんの米国外金融口座合計額が$15,000で、Bさんの米国外金融口座合計額が$20,000であった場合:
- AさんとBさんのどちらもが、それぞれFBAR申告書の申請をする必要があります。
【例2】Aさんの米国外金融口座合計額が$15,000で、Bさんの米国外金融口座合計額が$9,000であった場合:
- AさんのみがFBAR申告書の申請をする必要があります。夫婦の金融口座合計額を合算する必要はありません。
子どもの場合も同様に:
- 1米国市民権または米国永住権を持っているか、税法上の米国居住者であるか、またはDual-Statusに該当している
- 2海外の金融機関口座で、年間の最高残高の合計が$10,000を超えている
上記の2つの条件に該当する場合、FBAR申告の対象者となるため、FBAR申告の提出が必要です。
本人がFBAR申告書の署名をすることができない場合は、ご両親、もしくは後見人がFBAR申告書に署名し、申請手続きを行います。
申告対象となる海外金融口座
FBAR申告の対象となる金融口座は以下のとおりです。
必要となる情報
FBAR申告書において、必要となる米国外金融口座情報は、
過去のFBAR申告書を複数年行っていなかった方で、最高残高額の情報入手が困難となるケースがよくあります。
FBAR申告にて記載される最高残高額について、「The maximum value of an account is a reasonable approximation of the greatest value of currency and non-monetary assets in the account during the calendar year.」と明記されています。
「Reasonable approximation」とは、日本語で「ほぼ等しい」と訳されますので、もし過去の銀行最高残高情報の入手が困難である場合、分かる範囲での正確な数値にほぼ等しい数値でも申告できます。
よくある質問
Q. 共同名義口座(ジョイント口座)の場合、どのように申告しますか?
A. FBAR申告の対象者が共同名義口座を持っている場合、保有割合に関係なく、その口座の全額を申告します。
【例】FBAR申告対象者である夫婦が、日本に共同名義 (50%ずつ)の銀行口座を保有していて、その口座の最高残高額が$40,000である場合:
- 各個人のFBAR申告書でその口座の最高残高を$20,000ずつ申告するのではなく、両人がそれぞれ$40,000を申告することになります。
申告日
FBAR申告の申告日は、通常の米国個人確定申告と同じく、 4月15日となります。
この期日に間に合わない場合、自動的に6カ月の延長が認められます。
この自動的に行われる6カ月の延長は「Automatic Extension」と言われ、FBAR申告者が延長申請を行う必要はありません。これは、FBAR申告対象者の負担を軽減するために、2016年度から施行されました。
FBAR未申告による罰金額
FBAR申告の未申告による罰金は、意図的なのか、意図的ではなかったのかで罰金額が大きく変わります。
Bittner v. United States
FBAR未申告が意図的ではない場合による罰金は、「未申告の口座1つに付き$10,000なのか、それとも未申告であった年に付き$10,000なのか」という論点で、米国最高裁にて裁判が行われました。
Bittnerさんはルーマニアの移民で、米国市民権を取得しました。市民権を取得して数年後にルーマニアに帰国し、その間、ルーマニアにて銀行口座を約50口座開設しましたが、FBAR申告についての知識がなく、5年もの間、FBAR未申告のままでした。その後、米国に戻り、FBAR申告対象者であることが分かり、FBAR申告を遅れて提出しました。
IRS側は、未申告の口座1つに付き、$10,000の罰金とし、約$2,720,000の罰金をBittnerさんに請求しました。Bittnerさん側は、1年に付き$10,000であると主張し、裁判となりました。
米国最高裁は、2023年2月28日に判決を下し、Bittnerさんの主張を認めました。
この判決により、FBAR未申告が意図的ではない場合、FBAR未申告であった年に付き$10,000であると明確になりました。参考文献: BITTNER v. UNITED STATES
FBAR未申告である場合の対処法
FBAR申告の対象者であったにもかかわらず、申告義務があることを知らず、複数年に渡り未申告であった場合、最高で6年に遡って申告することになります。そのため、FBAR申告の対象となる金融口座情報をいち早く集める必要があります。
問題となるFBAR対象金融口座の年間最高残高額についてですが、上記に述べた通り、年間最高残高額は「Reasonable approximation of the greatest value」であっても問題はないとIRSが述べています。そのため、分かる範囲で現実に近い最高残高額を導き出し、いち早くFBAR申告を提出しましょう。
当事務所では、FBAR未申告である方への不安にお応えできるサービスを提供していますので、ぜひお問い合わせください。必要な情報を明確に提示し、早急に対応させていただきます。