Jビザのタックスリターン (研究者・ポスドク)

Published On: 10/02/2023By

ビザ保有者のタックスリターンは、租税条約や国際税務が関わるため、一般のタックスリターンと比べると複雑な申告書となります。

特に、Jビザ保有者に関しては、日米租税条約の第20条が2019年に撤廃されたこと、そして2017年に可決された税制改革法案「Tax Cuts and Jobs Act of 2017」により、Personal Exemption (世帯数控除)が撤廃にされましたので、Jビザ保持者の確定申告に大きな影響を与えました。

この記事では、Jビザ保有者のタックスリターンについて解説します。ぜひご参考にしてください。

なお、以下「タックスリターン」は「確定申告」称しますので、予めご了承ください。

Jビザ - 確定申告書

Jビザ保有者で米国に滞在している方には、一般的に以下の申告書が該当します。

Form 8843

Form 8843は、Jビザ保有者が"Exempt Individual"に該当する事をIRSへ報告するための申告書です。

米国非居住者確定申告 (Form 1040NR)

Form 1040NRは、米国の非居住者向けの確定申告書です。Jビザ保有者で、米国の病院や大学から給与を受け取っている場合、この確定申告書を使う必要があります。

州確定申告 (State Income Tax Return)

Jビザ保持者が、所得税のある州に居住している場合、州確定申告が必要になることがあります。連邦の税法と州の税法は異なる場合があるため、注意が必要です。

上記の全ての申告書が該当する方もいれば、1つのみに該当する方もいます。

一つ一つ詳しく説明していきますが、その前に実質的滞在日数テスト(Substantial Presence Test)について説明をいたします。

実質的滞在日数テストについて

実質的滞在日数テスト (Substantial Presence Test)は、米国内での滞在日数に基づいて、外国人が米国の税法上、居住者として扱われるか、非居住者として扱われるかを判断するテストです。日本語では、「実質的滞在日数テスト」と呼ばれています。

ビザ保持者が米国に滞在している場合、以下2つの条件を満たすと、税法の米国居住者と判断されます。

テスト#1

確定申告の該当年度における米国滞在日数が31日以上であること。

テスト#2

以下の計算式に基づく結果が183日以上であること。

(該当年度の米国滞在日数) + (1年前の米国滞在日数÷3) + (2年前の米国滞在日数÷6) = 183日以上

米国実質的滞在日数テストの例

米国に滞在しているビザ保持者が、2023年度の連邦確定申告の手続きを行うにあたり、自身が米国居住者であるか、もしくは非居住者であるかを判断するために、過去3年の米国滞在日数を調べました。その結果、過去3年の米国内の滞在日数が以下の通りとなりました。

2021年: 0日

2022年: 130日

2023年: 150日

テスト#1

確定申告の該当年度における米国滞在日数が31日以上であること。

このビザ保有者の2023年度の米国滞在日数は150日ですので、テスト#1の31日以上の条件を満たしています。

テスト#2

以下の計算式に基づく結果が183日以上であること。

(該当年度の米国滞在日数) + (1年前の米国滞在日数÷3) + (2年前の米国滞在日数÷6)

2021年: 0日÷6 = 0日

2022年: 130日÷3 = 44日

2023年: 150日

よって合計は194日 (150+44+0)となり、テスト#2の183日以上の条件も満たしています。

このビザ保有者は、実質的滞在日数テストのテスト#1テスト#2の両方を満たしているため、2023年度の連邦確定申告を米国居住者として確定申告を申請します。

Jビザ - 実質的滞在日数テストについて

J-1ビザ保有者には、"Exempt Individual"という特別なルールが適用され、実質的滞在日数テストに使われるの米国滞在日数が最初の2年カウントされません

例えば、MさんというJ-1ビザ保持者が2022年9月1日にMayo Clinicで研究活動を開始し、2023年12月31日に研究を終え、日本に帰国しました。確定申告の該当年度は2023年度とします。

Mさんの米国滞在日数は以下の通りです。

2021年: 0日

2022年: 180

2023年: 365日

他のビザ保有者である場合、実質的滞在日数テストに基づき、米国居住者と判断されます。

しかし、MさんはJ-1ビザ保持者であるため、最初の2年間、"Exempt Individual"となりますので、2022年と2023年の米国滞在日数はカウントされません。その結果、実質的滞在日数テストに使われる米国滞在日数は以下のようになります。

2021年: 0日

2022年: 121日→ 0日

2023年: 365日→ 0日

そのため、MさんはSubstantial Presence Testのテスト#1と#2のいずれも満たしません。よって、2023年度の確定申告は米国非居住者として確定申告の申請をします。

もし、Mさんが日本に帰国せず、2024年も米国に滞在する場合、2年を超えるため、"Exempt Individual"が適用されなくなります。

そのため、2024年1月1日からの米国滞在日数がカウントされ、実質的滞在日数テストによって、米国居住者として確定申告を行う可能性があります。

例外

4-out-of 7 Calendar Year Rule

もし、J-1保持者が米国外の雇用者(Foreign Employer) からのみ報酬を受け取っていている場合、Exempt Individualの適用期間は2年から4年に延長されます。

Form 8843について

Form 8843は、J-1ビザ保有者が最初の2年、”Exempt Individual”に該当することをIRSに報告するための申告書です。

Form 8843を確認したい方はこちらのウェブサイトをご覧ください。(Form 8843)

Fom 8843 - 対象者

J-1ビザ保有者である場合、最初の2年はExempt Individualであるため、Form 8843を提出する必要があります。Form 8843は、所得の有無にかかわらず、提出が必要です。

また、Form 8843は米国納税者番号 (ITINやSSN)がなくても提出が可能です。

Form 8843 - 申告方法

Form 8843のみが該当する場合、申告は郵送で行います。もし、J-1ビザ保持者がForm 1040NRを申告する場合、Form 8843を一緒に申告することが可能で、確定申告書の内容によっては電子申請をすることが可能です。

Form 8843 - 郵送先

Form 8843の郵送先は、Form 8843が掲載しているIRSの公式ウェブサイトの"Current Revision" セクションの "Form 8843"へ行き、"General Instructions"の "When and Where To File"を確認してください。(おおよそ3ページ目に位置しています)

郵送先は、変更されることがあるため、提出前に必ず郵送先を確認する必要があります。

Form 8843 - 申告日

Form 8843のみを申告する場合、申告日は通常6月15日です。

Form 1040NRとForm 8843を一緒に申告する場合、通常の期日は4月15日です。ただし、延長申請を行うことで、6カ月の延長が可能です。

Form 1040NRについて

Form 1040NRは米国非居住者用の確定申告書です。米国居住者用のForm 1040と似ていますが、異なるフォームなので注意する必要があります。税務上の非居住者が、間違ってForm 1040を申告すると、修正申告が必要となります。

Form 1040NRを確認したい方はこちらをご覧ください。(Form 1040NR)

Form 1040NR - 対象者

Jビザ保有者が、米国での勤務により所得を得た場合や、講演料、米国投資口座の所得などがある場合、その所得は課税対象となります。そのため、Form 1040NRの申告が必要となります。

Form 1040NR - 申告方法

通常、Form 1040NRは電子申請での申告が一般的ですが、申告書の内容によっては郵送での提出が必要となることもあります。

Form 1040NR - 申告日

通常の提出期日は4月15日です。延長申請を行うことで、6カ月の延長が可能です。

州確定申告について

州確定申告につきましては、全ての州をこの記事でカバーするのは難しいので、注意点をご紹介します。

州確定申告 - 所得税のない州
  • ネバダ

  • アラスカ
  • フロリダ
  • テネシー
  • テキサス
  • ワシントン
  • ワイオミング
  • サウスダコタ

州確定申告 - 州の居住ルール

連邦では"Exempt Individual"として米国滞在日数がカウントされないルールがありますが、州には"Exempt Individual"という特別なルールはありません。

多くの州では、1年間を通して居住すると、州税法上の居住者(Full Year Resident)とみなされ、全世界の所得が課税対象となります。全世界の所得が課税対象になる事を「Worldwide Income Tax」と言います。

年の途中で州に移住した場合、Part-Year Residentとして州確定申告を申請する事も可能です。その場合、一般的に居住が始まった日から「Worldwide Income」が州確定申告にて課税対象となります。

州確定申告 - 申告義務

所得税のある州に勤務し、そこから給与をもらっている場合、州確定申告書の申請が必要です。しかし、所得が一定の額以下である場合、申告の義務がない場合もございます。

例えば、マサチューセッツ州では、居住者の総所得が$8,000を下回る場合、確定申告の提出は必須ではありません。(参考)

ただし、州確定申告を行わないと、還付金やクレジットを受け取ることができなくなり、もし追加の税金が発生した場合、遅延罰金などを含む通知書を受け取る可能性があります。

したがって、所得税が課税される州で給与所得を得ている方は、州確定申告書を申請することをおすすめします。

州確定申告 - 申告日

ほとんどの州確定申告は連邦確定申告と同じく通常4月15日となり、延長申請手続きを行うと、6カ月延長が認められます。

一部の州では、自動的に6カ月の延長を認める場合がございますが、自動延長を認める条件として、確定申告の見積額を4月15日までに納付する必要があります。

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